劇場版『メタモルフォーゼの縁側』見た

 

楽しみ半分これは厄介オタクになるかも!!という気持ち半分でドキドキしながら見てきた。気になるところがなかったわけじゃないけどとても面白かったです。

原作の持つほっこり明るい作劇の中で淡々と描かれる雪さんの「老い」と近づいてくる二人の別れ、という展開がとにかく好きなのでその辺の再現度がめちゃくちゃ高くて良かった。最初に訪れた時は人が長いこと住んだ家にありがちな煩雑さがあった雪さんの家がコミケ行き損なって久し振りに行ったあたりから少しずつ物がなくなっていく描写、そしてコメダ先生の連載の完結時には露骨にものがなくなっていてるのとかすごく良い。原作の断捨離をしている雪さん、彼女からお皿をもらって動揺するうららさんのやりとりとかすごく好きなんだけど尺に限界がある分演技ではないところでその辺の描写を表現していくの、映像ならではだな。改めて振り返ると原作5巻分を1回の映画でやるという制限の中で原作の持つゆっくりとした時間の感覚を再現するために色々なところで工夫がサれていた気がする。サイン会での「今日は完璧な一日~」からエンディングの暖かい寂寥感も凄く好き。

作中作としてうららさんの出したBL同人誌の内容が全文出てくるんだけど(原作でも一部しか掲載されてない)、もうそこかしこにうららさんが雪さんと過ごしたエピソードが散りばめられててエモいんですよね……なんだこれ雪さんとうららさんの思い出メモリアルじゃん……本人が描いたほのぼのカップリング本……いや、カップリングというと語弊があるんですけど、うららさんにとっては自分を「星の海」に連れ出してくれたのは雪さんなんだよなっていう……可愛い……。

うららさんは芦田愛菜さんが演じていて芦田さんは普通に可愛いんですけど(わたしだって一応テレビで見たことある)お洒落とか髪型とか全然気を使って無いちゃんとしたら可愛いけどどこかモサっとした感じと、普段のちょっとどもりがちな喋りなのに自分の好きなものの話になったら流れるように早口で話し始めるギャップがすごくクラスのすみっこにひとりはいるオタク女子という感じで親近感というか再現度が高い。雪さん見た目が若い分原作よりも体調不良の描写が盛られてる感じでおおう……となったんですけど体調崩した後知り合いの印刷屋のケツ叩いて無理やり青海に行こうとする描写とか元気なおばあちゃん感あって好きです。原作みたいに人だらけのイベント会場でチャッカリ目当て以外のBL本買うところも見たかったけど。原作ではちょっと浮世離れした美人でBLにはむしろ興味ないって感じだったえりさんが選り好みしないで彼氏に話題振られて気になってBL読んでハマっちゃって気軽にうららさんにおすすめBLコミックを聞いてくる陽キャになってるのはすごく今どき感……というか2020年ならではの改変ポイントだなあ。アナログ画材をメルカリで取り寄せてYoutubeで使い方調べるうららさんも今どき(※前半のメリカリで道具を譲ってもらうところは原作通り)だ。つむっちはなんか、うららさんと恋愛だと思われない範囲ででもジャニーズ枠だしもうちょっと出番を増やして……そうかコミティア現地だみたいな制作側のアレを想像してしまったけど二人の関係性が安易に恋愛にされないのよかった。

劇場版オリジナルの展開だと、雪さんが書道を志した理由が小さい頃に自分の字が下手だったせいで好きな漫画家の先生にファンレターを出せなかった。ファンレターを出せないまま漫画家を廃業されてしまったという経験に基づくものだというのがめっちゃ好きです。好きな人に自分の想いを伝えるためにその強さを手に入れるために書道の先生になった雪さん完全に強いオタクじゃん……小さい頃からオタクの素質あったんだな……。

イベント会場でのエピソードがゴリゴリカットされているのは多分リアルな描写を追求すると撮影が難しかったんだろうな……としみじみしてしまったんですが、私どうしてもうららさんにはあそこでイベント参加してほしかったのでそこだけ不参加という展開にされてしまったのがすごく悲しい。本が売れなくても達成感はあって、それでも最後の最後で2冊だけ売れて、胸がいっぱいになって、あれはうららさんにとってたとえ2冊しか売れて無くても「大成功」のエピソードだったはずなんです。そこが雪さんが参加できなかったから自分も最後の一歩が踏み出せなくて、当然本は売れなくて……という「失敗」のエピソードに変えられてしまったの本当に残念だな。たとえ「自分のファンだと名乗るおばあちゃんがBL本を売ってて興味持った」という経緯が同じでも、あくまで本が売れたのが会場外で雪さんからじゃ駄目なんですよ……あと身内に売るのと身内以外に売れるのは同じように嬉しくても全く意味が違うので……。でもコミティア140の現地ぽかったからそんな悠長に撮影できなかったのもわかる。わかるんだけどくやしいなあ……。ところであのコミティアの会場、もう既に取り壊されてしまった青海展示場なので映画を見た人はそっとオリンピックのあいだ我々オタクを支えてくれた生命線みたいな会場だったことを覚えて帰ってくださると嬉しい。私も数回しかでかけてないけど。

ラストで雪さんがいない家の縁側に腰掛けるうららさん、流れるふたりのデュエットソング……という図が最高の高だったので総合的にはめちゃくちゃ満足の映画でした。

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