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「僕とドレスと白昼夢」

土曜日にはなさんの萌え茶に参加して書かせてもらったSSを微修正したもの。
考えたら文を置く場所がなかったので、こちらにおいときます。

久保×明久で、女装ネタです。苦手な人はご注意!

続き



「うわあああああ~~!」

今日の自習時間に課題として提出されたプリントを集めて職員室に持って行く途中、僕は階段の方から聞こえてくる大きな物音と叫び声を聞いて思わず振り向いた。

どうやら誰かが足を踏み外して転落してきたらしい。
いつもならさりげなく巻き添えを食らわないよう身体の位置をずらすところだが、その叫び声の主には心当たりがあった。もし「彼」が僕の前で怪我をするようなことがあったら、僕は一生自分のことを許せないかもしれない。

そういう訳で、あわてて落ちてきた人物を受け止めると、僕の腕の中には何故か純白のドレスに身を包んだ吉井明久君が居た。男である彼が何故純白のドレスを着ているか、などというのは些細な問題だろう。いや、凄く似合っているので何の問題も無い。確か、先日演劇部の手伝いに借り出されていると聞いた気がするし。

「吉井君、大丈夫かい?」
「あ、久保君……ありがとう、助かったよ!…畜生雄二の奴、霧島さんから逃げるためだからって無茶しやがって…」

僕の顔を見て反射的に笑顔を見せた吉井君は、自分の服装を思い出したのか頬を真っ赤に染めた。
変な目で見られていないかと心配になったのだろう。
上目遣いでおそるおそるこちらを見つめてくる。

「こ、これは別に僕に女装癖があるとかそういう事じゃなくてっ!!演劇部の手伝いで!!」
「うん、知ってる。本当によく似合っているね。まるで本当のお姫様みたいだ」
「ちょっと久保君落ち着いて!!それちっとも褒め言葉じゃないよ!?」

腕を振り回して暴れる吉井君をそっと床に下ろして、中世の騎士のような所作で彼の前に膝をつく。
突然の事態を目の前にして戸惑う吉井君の手をとって、言った。

「…あの、久保君……?」
「君のことは僕が護るよ。いつまでも……」

僕の唇が吉井君の白いレースの手袋をつけた手の甲にそっと触れて――



**************




「うわ~、どうしよう!ねえ、大丈夫!?雄二ぃぃぃ!いくら霧島さんから逃げるためとはいえ、人間を投げるのは良くないと思うよ!せめてやってもいいから僕以外の人間を投げてよ!!迷惑だよ!!怪我でもしたらどうするの」

秀吉が所属する演劇部の手伝いで新校舎に向かっていた僕を階段に突き飛ばしたのは、いつもの通り霧島さんのラブアタックから逃げようと必死な僕の悪友・坂本雄二だった。運良く僕は傷一つなかったけど、この衣装で階段から転落して、借り物の衣装を破いたりしたらどうなると思ってるんだ。っていうかこの衣装、幾らするんだろう…予想される金額と今月の仕送りの残り金額とを考えると背筋が寒くなる。

ようやく霧島さんを撒いたらしい雄二が一向に動かない僕の様子を見に階段の下にやってきた。目線で必死に抗議するが、華麗に無視。この悪友がそんな無言の抗議に応じるとは全く思ってないからいいけど…結果的に僕が階段から落ちそうになって騒ぎになったせいで上手い事霧島さんを撒けたわけだし、もうちょっと僕を労わってくれてもいいと思う!

「雄二どうしよう。久保君、起きないんだけど……」

僕が怪我をしなかった理由は簡単だ。落ちてきた僕の下にたまたま久保くんが居たからなのだ。何故か避けようともせずに腕を広げている久保君の姿が見えた瞬間、いつもの背筋の寒気が襲ってきて、思わず避けようとしてしまったんだよなあ……結果、久保君の顔面に僕の肘が決まる形になって、久保君は見事にノックダウン。必死に声を掛けてるんだけど先ほどから一向に起き上がる気配が無い。

「あー……久保か。それなら起き上がったらお礼でも言っておけ。それで無問題だ」
「いや全然問題だらけだよ!せめて保健室につれていくまで付き合ってよ雄二!!誰のせいでこんなことになったとおもってるの!!」
「じゃあお礼に一つ、なんでも言う事を聞いてやるといい。それで帳消しだ」
「意味が判らない!!あとなんかその顔で笑ってる雄二の言う事を聞くと取り返しのつかないことにならない気がするんだ!!」

雄二といつもどおりの口論を繰り広げている途中、ふと気絶しているはずの久保君の口元が綻んだのが見えたような気がして、何故だかまた背筋が寒くなった。

「手の甲にキス」というお題で書きました。
久保君の真意を理解していないのに、本能で背筋が寒くなる明久が好きです。すれ違いっぷりにによによします。

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